終末期・緩和ケアを専門とする作業療法士のブログ~死について、もっと前へ…~

終末期・緩和ケア分野で働いている作業療法士の藤田と申します。日々の臨床で感じること、思ったこと今までの経験などを書き記していきたいと思います。終末期リハビリはまだまだ始まったばかりの分野です、意見交換できれば幸いです。

終末期におけるリハビリテーション~自己分析の促し~

こんにちは、終末期作業療法士の藤田です。

 

おかげさまで前回の記事に多くのアクセスが付きました。

終末期におけるリハビリテーション①~関係性の再構築~ - 終末期・緩和ケアを専門とする作業療法士のブログ~死について、もっと前へ…~

 

それだけ終末期リハに対して興味を持たれている方が多いのだなぁと、嬉しくなりました。

 

前回の関係性の再構築はどちらかというと「医療者に向けての」内容でした。

今回は患者様の変化について

リハビリの目標の一つである「自己分析の促し」について

 

自己分析は自己の復権の第一歩であり目標 

患者様の多くはは入院・がん告知・機能の急激な低下などから「できること」「できないこと」が判別ができないくらいショックを受け、「自分は何もできなくなった。」と感じたところからスタートします。

リハビリ介入前に困っていることを伺うと「良くわからない」と話される方を多く見かけますし、それが、MMTが5であろうが拘縮が無かろうが、車いすにスムーズに移ることができようが「何もできなくなった」と話される方に多くお会いしてきました。

現状の認識・自己分析が行えないと、当然リハビリも進みません、そして自分の人生を自分で決定することが難しくなります。

 

まず医療者がすべきことは「ショックを受けている患者様」を認識することです。

患者様は急激な物事の変化に取り残され、体も心も動かしたくても動かせない状態であるということを理解しなければなりません。

そのような方にいきなり「頑張って歩きましょう」と言えませんし言ったとしても患者様には届かないことが多いです。

緩和ケア・終末期リハビリテーションでまずすべき目標は何が何でも立たせるではなく「現在の自己について」向き合う時間を作ることです

 

自己分析を促すことが患者様に与える影響

上記ショック期は「この間まで動けていた自分」と「病状が変化し、自分のイメージとは離れた自分」の乖離によって生まれることが多く、医療者の目標はそれら現状とのすり合わせのための自己分析になります。

患者様様ご自身が自己分析を行うことで「どれくらい動けるのか」「どうなったら痛いのか」を実感し、がむしゃらに機能を上げるのではなく、目標に向かってどういったことが必要なのかを患者様側から考えることができます。

そうすることで目標がより現実的なものとなり、終末期・緩和ケア分野でのリハビリテーションの目標である「自己の復権・主体性の再獲得」につなげることが可能になります。

 

自己分析の促しの落とし穴

前回同様ですが「医療者の都合の良いように誘導しないことです」

あくまで主体である患者様が「自分で考える、感じる時間」を持つことです。

「医療者が向き合わせてあげる」ではなく「患者様が向き合う事ができる環境」を構築することですので。

前回の関係性同様、患者様が主体であることを心がける必要があります。

 

自己分析を促す方法

方法は様々ですが、患者様との関係性や生活、時代背景、職歴などによっても大きく変わります。

①前もって目標として「自己分析」を提示する(ボトムアップ

患者様の語りを聴きながら「現状『何がどうなっているか分からない』と思うので、まずはリハビリを通じて整理しましょう」という提示をし「できること・難しいこと」を感じていただく。

自己分析を押し付けるのではなく、あくまで「現状の辛さ」を共有した上で介入し、ご自身の中でのできるラインを明確にしていく。

 

②ご本人の掲げる目標を行い、分析を促す(トップダウン

「明日になれば歩ける」「俺は大丈夫だから」そう話される方も多く看取ってきました。男性に多い印象です。

自己分析を話してもピンとこない「自分は元気だと感じている(実際はショックによる病状の否認の意味合いが強いのですが)」方の場合は①のようなボトムアップで介入をしても自己分析にはなりません。

医療者がすべきことは、医療者の目線でほぼ不可能であることであっても。まず本人のしたいことを理解、共有し、実際にリハビリで行っていただく。

その中で「難しい」と感じられたところでRhはスタートします。

※勿論リスクには最大限配慮しますが、前に進むためであれば極端な話大怪我でなければ転んでも良いのだと思います。

私は声掛けとして「転ぶ可能性がありますが、好きなようにやってみてください、転んでも怪我しないようにお手伝いします。そして本当に危なかったらプロとして止めます!」と話すことが多いです。

 

③できていることを強調するように働きかける(言語化)

ショック期から抜けられない、Rhに依存が強い、性格として自分をほめられない方も多く看取ってきました。

基本的にはご自身の感覚を最優先しますが「言語化」することで安心につながる場合もあります。同時に「本人にとっての良い部分」を認識され、自己分析に繋がります。

初回介入時と比較して頂くことや歩行距離や車いすのギャッジアップ角度など数値としてわかりやすく向上したことを共有するのも方法としてはあります。

しかしこの方法は前回の記事

「得意顔になって色々話している医療者に無理に合わせてくれている患者様」

終末期におけるリハビリテーション①~関係性の再構築~ - 終末期・緩和ケアを専門とする作業療法士のブログ~死について、もっと前へ…~

 の部分につながる可能性もある為、注意が必要です。

①②の方法に抵抗感がある、苦手な療法士は、この「言語化」を積極的に行われますが、あくまで言ったことでの「分析の促し」が本題なので共有の後に目標の再設定が可能かどうかの検討が必要になります。

 

④何もしない

ショック期(転倒直後・急激な病状の進行・予後告知など精神的疼痛が著しい状態と定義)の方の場合、無理に活動を促すことで身体的のみではなくトータルペインにつながる可能性があります。

精神科で言う急性期と同様、無理に離床を促したり自己分析を進める事は禁忌になります。

まずは会話作業やBEDSIDEでの軽運動・マッサージなどのリラクゼーションで患者様が安心できる場を作り、徐々に意識を生活に向けていくことが必要になります。

私の経験上、この場面で医療者側がしびれを切らして患者様との関係性が変化した症例を何度も見ております。
患者様に医療者側が動揺してしまう部分もあるかもしれません、勿論いけないことではありませんが、認識を持って行動することが大切です。

 

まとめ

今回は最初の患者様の目標である「自己分析の促し」についてまとめました。

「自己分析は現状と自己イメージのすり合わせ」

「『何もできなくなった』からスタートする患者様が多い」

「医療者主体ではなく、患者様が自己分析のできる環境を作る」

「①介入時にRhの最初の目標は現状を知ることであると伝える」

「②医療者目線でできないからダメではなく、実際に行って頂く」

「③言葉として伝え際は、医療者主体にならないように注意する」

「④ショックの強い患者様に無理な分析を強いらない」

大まかなポイントは上記部分になります。

 

終末期医療・緩和ケア・リハビリテーションにおいて患者様がより良い最期を迎えるためは自分ともう一度向き合い、今の自分で何ができるのか?何をしたいか?を知ることが重要になることが非常に多いです。

医療者主体ではなく、患者様が主体となること、「弱者」とみなされてしまう患者様が理学療法作業療法問わず、リハビリテーションの本来の目的である「人生の復権」をもう一度行えるようにリハビリを行っていく必要があります。

 

この部分に関してはより掘り進めて行きたいところですが、それはまた別の機会に。

 

少しでも参考になる部分があれば幸いです。

私自身の知識を深めるためにもご意見などいただければ幸いです。

 

藤田

 

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